[メンテ4]  (←前) (次→)

第9話 「Past,Future and Today」

(作成:1997年5月4日 改訂:1997年7月18日)

(TEXT : BOND / Z3)

海沿いの景色の良い場所に車を停めて、少し休憩を取ることにする。
自販機で温かい缶紅茶を買ってきて、ベンチに腰を下ろしておもむろにタブを起こす。

本当はスタッシュのアール・グレイを頂きたいところだが、ここでは缶紅茶で我慢だ。

雲一つなく澄み切った空と、青い海にぽっかり浮かんだ孤島と漁船、そしてグラマラスな Z3を眺めながら、紅茶で渇いた喉を潤す。
真冬のオープンドライブで冷えた体に、温かい紅茶が染み入る。
身も心も潤される、と言ったらオーバーだろうか?
都会の喧騒から解き放たれて、静かに聞こえてくる波の音と、きれいな空、青い海、 そして好きな車を眺めながら、休日の午後にお茶をすする。
(あと、隣に「素敵な女性」でもいれば申し分ないのだが...。)
たまには、こうしてのんびり過ごすのも悪くはないだろう。

長いノーズに短いデッキを持つZ3のシルエットは、どことなくクラシカルだ。
それでいてどこか近未来的で、でも紛れも無く今日のBMWデザインであるのだから 驚かされる。
巧みな曲面(「曲線」では無い。)の中にも、鋭い目線で見るものを威圧しているかのようだ。
Z3は、日常を少し離れたスポーツカーだ。
スポーツカーにとっては「カッコウ良さ」も大事な要素だ。
少々、飛んだデザインが許されるのは、スポーツカーの特権だ。
アクの強いZ3のデザインは好みがはっきり分かれるだろうが、私はBMWがここまで やったことに価値があると思う。
もちろん、今までにも冒険的なデザインはBMWにおいても行われてきた。
Z1もそうだし、今では見慣れてしまった3erのマスクだってそうだろう。
しかし、ここまで「飛んだ」デザインはあっただろうか?
(日本では目立ちすぎて、諜報活動がやりにくい...。)
あくまで低く、地を這うかのような全体のプロポーション、 (実は全高は見た目ほど低くない。) 今まさに、獲物に飛び掛からんとする獣のようなきつい目元、 しかし、それとは反対に、ふくよかで悩ましげな曲面で構成されたフロントフェンダー、 そのフロントフェンダーの膨らみを強調する、フードのV字状のはっきりとしたプレス、 フロントフェンダーアーチから続き、中央部で一旦下がり、リアフェンダーアーチに 向けて再び盛り上げられたラインを持つ古典的なサイドシルエット、 スポーツカーを印象づける、小さなボディーには不釣り合いなほどの大径タイヤとサイド のスリット、フロントマスクとは打って変わって簡潔にまとめられた、それでも一目でBMWと 分からせるリアビュー。
このデザインは計算された仕事だと思う。
デザインのそこかしこに過去のBMWをモチーフにしつつ、現代のBMWを表現し ていることが良く分かる。
キドニーグリルと丸4灯のヘッドライトは当然としても、サイドのスリットが50 7から引用されているのは有名な話だし、 インテリアやリアビューのデザインは、Z3がZ1の正当な継承者であることを示 している。

さて、Z3のボディーに見惚れるのもこれぐらいにして、少し海岸線を流して、 その後見晴らしの良い小高い丘に登ることにしよう。

「空缶はくずかごに」か・・・。
[メンテ4]  (←前) (次→)