320siWTCCの造り方
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メンテ33原稿を元に新たに書き直したものです。
■ボディ前編
ここはBMWレーゲンスブル工場。E90のボディがラインを流れています。
ほとんどがロボットによる製造のようです。
ボディ製造の途中で市販車のラインから抽出され、WTCCマシン専用ラインに流れます。
ここからが、いよいよWTCCマシン独自の工程が始まります。
不要なところは取り去り軽量化、さらにスポット溶接を追加し、剛性を向上させます。同時にロールケージの取り付けも行います。
全て手作業にて、慎重かつ丁寧に作業が進められています。
まるでジャングルジムのように鉄パイプが複雑に入り組んでいます。
ロールケージは溶接にて取り付けられます。
これはもうモノコックというより、パイプフレーム・ボディと呼んだほうが良さそうです。見るからに剛性が高そうです。
ダッシュボードが取り付けられる前の運転席の風景。ステアリング・ポストがケージから直接伸びているのがわかります。市販車とは全く違う構造です。
広く、クリーンな環境で作業が行われているようです。
出来上がったホワイト・ボディはトレーラーに乗せてレーシング・チームに運ばれます。トレーラーにはE46WTCCマシンのイラストが書かれていて、カッコイイですね。
ガレージ内に運び込まれ、いよいよ作業が始まります。
作業開始前に各部を入念に点検。
サフェーサーは既に塗られているようです。
手作業によってアルピン・ホワイトに塗装されます。
下回りも入念に塗装されます。
■ボディ後編
塗装が完了したボディに樹脂、カーボン・パーツの取り付けが開始されます。
フロント・バンパー内部のダクトの構造がわかります。効率よく空気を導入できるようになっています。
サイド・ステップの形状も市販車とは全く異なっています。手前に見えるシリンダー状のものは内臓ジャッキでしょうか。
ドライ・カーボン製で非常に軽そうなリア・フェンダー。
リア・フェンダーは既存のものの上から接着、フロント・フェンダーは一体で全く別モノです。
これらの専用バーツは全てドライ・カーボン製です。フロント・バンパーには牽引ストラップを納めるダクト状の穴が開けられているのがわかります。
カーボンパーツにもサフェーサーが塗られ、ボディ同色に塗装されます。
順次、ドアやボンネットが取り付けられてゆきます。
こちらの工場も広々として、整然としたクリーンな環境のようです。
■エンジン前編
エンジンの製造は英国コベントリー近くのハムズ・ホールあるBMWランツフート工場。F1エンジンの鋳造も行われているところです。ここで市販車の320si用のエンジンの中から、数基がWTCCマシン用として使用されます。もちろん一基一基、手作業により組み立てられます。
シリンダーヘッドはフラットに面研され、燃焼室も磨き上げられています。燃焼室容量もキッチリ合わせられていて、非常に品質、精度が高そうです。
バルブを一本一本擦り合わせながら、組み込んでいます。
シリンダー・ヘッドの精度により、レーシング・エンジンの性能は左右されます。こちらのバルブの組み付けは完璧のようです。
クランクシャフトの入念なバランス取りがなされています。
シリンダーブロックにヘッドが載せられます。
カムシャフトの軸受けもピカピカに磨き上げられています。
カムシャフトの取り付け。かなりのハイカムのようです。やはり市販車とは別モノなのでしょうか。
バルブスプリングの取り付け。もう少しでエンジンは完成のようです。
コンピュータ・グラフィックスによるエンジン設計図。稼動部分を極力省略したことで高回転での剛性、精度を確保しているそうです。
■エンジン後編
完成したエンジンはベンチに載せられ、テストされます。
各部チェック中。
真っ赤なエクゾースト・マニホールド。
チェックを終えたエンジンが、いよいよ車体に搭載されます。エンジンは車体のかなり後寄りに搭載され、前後の重量バランスの最適化が図られています。
慎重に作業が進められています。エンジンフードの裏にも「BMW Power」の文字が刻まれています。
こちらでは予めギアボックスがエンジンに取り付けられています。通常の5速マニュアル・ギアボックスで、ギア比は各サーキットごとに最適化されています。ちなみに6速のシーケンシャル・ギアボックスを採用する場合は、30kgのウエイト・ハンデが課せられてしまいます。
エンジン、ギアボックス一体での搭載は前方からスライドさせるように行います。
エンジン、ギアボックスが搭載されたら、シャシー・ダイナモにてチェックが行われます。
同じ2リッターエンジンですが、4気筒は6気筒に比べて、全長が短く軽量なのがメリットです。最大出力は2005年のWTCC用6気筒エンジンと同レベルの275psを発生しているそうです。
■インテリア組み立て
インテリアというほどのパーツはありませんが、ステアリング、ペダル類を組み込んでいきます。
ステアリングを取り付けます。
ペダル類も取り付けていきます。
3つのペダルはまとめて同じパネルに取り付けられているため、ドライバーの身長に合わせて位置を合わせることができます。
まるでフォーミュラーカーのようなペダルです。
こちらはアレッサンドロ・ザナルディのマシン。足が不自由な彼のマシンは手だけでドライビングが可能なように改造されています。
レーシングカーですから、もちろんエアバックはありませんが、衝突安全性は市販車の3シリーズよりも高いそうです。
■電装系パーツの取り付け
これが320siWTCCの電装系の全てです。市販車と同じく一本の配線で複数の情報を転送するCAN-BUSシステムを採用することにより、利便性の向上、軽量化が図られています。
きちんと並べてから、作業が開始されます。
丁寧にボディに取り付けていきます。
内張りやカーペットがないので配線はもちろん剥き出しのままです。
市販車とは比べ物にならないほどシンプルな配線です。
エンジン・マネージメント・システムはミュンヘンのスペシャリストが開発した自信作だそうです。
エンジンルーム内の取り回しもシンプルで美しいです。
■その他の組み立て
フロント・ウィンドーは吸盤で貼り付けて、
二人一緒に取り付けます。
ブレーキやサスペンションの取り付け。
とてつもなく精度の高いダンパーのようです。市販車よりも、ワイドなホイール、大きなキャンバーに対応するように、ザックスと共同で最適なダンパーを開発したそうです。
コンピュータ・グラフィックスによるサスペンションの設計図。新開発のマルチリンク式リア・サスペンションをレーシング・バージョンにどのように適合させるかが、難しい課題だったそうです。
エグゾーストパイプの取り付け。
素晴らしいデザインのメイン・サイレンサーです。
■カラーリング
ベースのカラー以外はカッティングシートによるものです。
だんだん、レーシング・マシンらしくなってきました。
■エアロパーツ開発風景
エアロパーツの開発の様子を紹介します。
風洞観察室からの眺め。
ルーフからリアスポイラーへの空気の流れは、非常に重要なポイントです。
煙により空気の流れを目視します。
ワイドボディ化により、空気抵抗は増えてしまうのですが、テスト、改良の繰り返しによって、昨年までのE46よりも空力的に優れたものが完成したそうです。
壁には「BMW Windkanal(風洞)」と書いてあります。
320siWTCC仕様の開発にあたり、BMW Motorsportは、市販車製造エンジニアから風洞実験場やテストコース利用など積極的な支援を受けているそうです。
いろいろなデータはすべてコンピュータで管理されています。
■完成!

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フロントビューのワイド感が伝わってくるショット。F1譲りの最新BMW Motorsportカラーをまとっています。

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サイドショットではワイド・フェンダーがわかりにくく、意外と普通に見えてしまいます。

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斜め後からのショットでは、リア・ウイングが聳え立ち、フェンダーのワイドさがよく伝わってきます。

(クリックすると大きな画像がごらんになれます。)
リアビューは非常に安定感のあるフォルムです。
320siWTCCの開発はBMW Motorsportが全精力を注いで、9ヶ月間で行われました。このマシンは2005年12月から納車が開始され、2006年5月の時点で17台が納車されたそうです。ちなみに当時の価格は日本円換算で約2.710万円だったそうです。